1. 基礎理論:減算音韻論 (Subtractive Phonology)
ナギ・シンタックスの基本原理は、対象を「構築(加算)」するのではなく、「不要な可能性を排除(減算)」することで、目的の物理現象を『残留』させる点にある。
1.1 コロイドの物理的性質
惑星ヤ=ムゥを満たす「コロイド」は、あらゆる物理現象に分岐可能な**「可能性の重ね合わせ(Superposition of Possibilities)」**状態にある高エネルギー流体である。ナギ・シンタックスは、この「カオス(無限の可能性)」に対するフィルタリング技術として機能する。
1.2 音響による彫刻プロセス
術者が発する特定の「音素(Phoneme)」は、物理的な干渉波としてコロイドに作用し、特定の物理定数や状態の発生を**「否定(Negate)」**する。
- 加算式(一般的な魔法/科学): 無の状態にエネルギーを投じ、「火」を生み出す。
- 減算式(ナギ・シンタックス): 無限の可能性(カオス)に対し、「低温ではない」「固体ではない」「暗黒ではない」という否定条件(制約)を付与する。
- 結果(顕現): 全ての否定条件をクリアし、消去されずに残った唯一の物理状態(例:高熱の発光現象)が、逃げ場を失って現実空間に確定(崩壊)する。
このプロセスは、石塊から余分な部分を削ぎ落として像を取り出す「彫刻」に喩えられる。
2. 構文構造 (Syntax Architecture)
ナギ・シンタックスのコマンドラインは、対象を定義する言葉ではなく、環境に対する**「拘束条件(Constraints)」の羅列**で構成される。
2.1 三層共鳴(Tri-Resonance)
完全な減算処理には、以下の三つのレイヤーの同期が必要とされる。
- 音声コード (Audio Layer / Phonetic Code):
- 物理的な音響振動。クラオミ語をベースとした特定の周波数帯域を持つ。
- 機能:広範囲の物理法則に対する「拒絶」の信号。
- 思考イメージ (Mental Layer / Tulpa):
- 脳内で視覚化される幾何学図形や数式。
- 機能:量子レベルでの微細な可能性選別。複雑な演算処理は、脳内に構築した疑似人格「タルパ(人工精霊)」に代行させる場合がある。
- 印形 (Somatic Layer / Mudra):
- 手指や身体動作による入力。
- 機能:術式の有効範囲(座標)および開始・終了の物理的トリガー。
2.2 虚光(Void Light)の発生原理
術式行使時に観測される「虚光」は、術の効果そのものではなく、「減算プロセスによって切り捨てられた可能性(=実現しなかった未来)」がエネルギーとして廃棄された際に発生する廃熱現象である。大規模な術式ほど、大量の可能性を消去するため、強い虚光を伴う。
3. 運用上のリスク:認知圧と逆流
減算方式は、既存の物理法則を書き換える強力な出力を有するが、術者(オペレーター)の脳神経系に深刻な負荷を強いる。
3.1 認知圧 (Cognitive Pressure)
「何ではないか」を定義する際、術者は一瞬のうちに**「排除すべき無限の可能性(ノイズ)」を認識し、それを否定処理しなければならない。この際、処理しきれなかった情報の奔流が脳へ逆流し、自我境界を溶解させる現象が発生する。これを「コロイド酔い」や「虚無への溶解」**と呼称する。
3.2 太陽柱の短命性
最高位の術者である「太陽柱(タイヨウチュウ)」は、虚光機関の中枢と直結し、惑星規模の減算処理(環境制御)を行う。この常時接続による膨大な認知圧は、人間の脳の処理限界を超えており、歴代の太陽柱が短命である、あるいは精神に異常をきたす主因となっている。
4. 特異点:アンヒュポタストン (Antihypostaton)
次期太陽柱候補であるミズハは、この言語体系において理論上の最適解とされる特性を持つ。
- 定義: 「アンヒュポタストン(非実体/空虚な器)」
- 適性: 通常の人間は「否定」を行う際に「自我(肯定的な願望)」がノイズとして混入し、演算精度を落とす。しかし、強固な自我を持たないミズハは、ノイズを混入させることなく機械的に「否定」を実行できる。
- 能力: 彼女の発するナギ・シンタックスは、不純物を含まない**「絶対零度の切断」**として機能し、物理法則を最も鋭利かつ効率的に書き換えることが可能である。
5. 関連項目
- 虚光機関: ナギ・シンタックスの入力先となる演算装置。
- コロイド: 減算処理の対象となる、可能性を内包した物質。
- アクラブ星系: 「加算的なエネルギー投入」に基づく科学技術体系を持ち、ナギ・シンタックスとは対極のアプローチをとる文明。