1. 地理と環境:『視界ゼロの栄養スープ』
名前の由来
「暗黒」と呼ばれる理由は、光が届かないからではない。 常時発生している植物プランクトンの爆発的増殖(ブルーム)により、海水が**「濃い緑色や赤褐色」に濁り、透明度がほぼゼロ**になっているためである。
- 視界: 海中では数メートル先も見えない。そのため、この海域の生物は視覚を捨て、ソナー(音響)や側線(水流感知)を進化させている。
物理的特性
- 水温: 深層から冷たい水が汲み上げられるため、表層でも極めて冷たい。
- 海流: 複雑な海底地形と潮汐力がぶつかり合い、予測不能な激流や渦が発生している。
2. 自然現象:『大龍昇(The Great Upwelling)』
この海域の心臓部であり、すべての生命と争いの源泉となる現象。
メカニズム
大陸棚の断崖や海底山脈に、400メートルの潮汐流が激突することで発生する**「地形性湧昇」**。 深海に沈殿していた有機物(死骸)やミネラル(リン・窒素)を含んだ冷たい海水が、あたかも巨大な龍が昇るかのように、海底から海面へ向かって爆発的に噴き上がる。
影響
- 豊穣: 地球の漁場の数百倍に達する栄養塩が供給され、それを餌とするプランクトン、小魚、そして巨大海獣(レヴィアタン)が集まる惑星最大級の漁場を形成している。
- 災害: 湧昇流は海面を盛り上げ、局地的な高波や、酸素濃度や水温の急激な変化を引き起こす。船乗りたちはこれを「龍の気まぐれ」として恐れている。
3. 生態系:『怪獣たちの戦場』
栄養が過剰供給されるこの海域では、生物は巨大化し、凶暴化している。
レヴィアタン (Leviathan)
- 概要: クジラや海竜に似た超巨大生物。豊富な餌を濾過摂食、あるいは捕食することで、物理的限界を超えたサイズに成長している。
- 資源価値: 彼らの脳油、骨、皮、そして体内に稀に形成される「深淵群青(結石)」は、北部の人間(ヴァスカ)にとって最大の収入源である。
深海種族 (Abyssals / Mataku-Moko)
- 概要: エラ呼吸に特化したウディアンの一種族「マタク・モコ」。
- 行動: 湧昇流に乗って深海から浮上し、人間やイワガネ族を襲撃する。彼らにとってこの海は、地上の獲物を狩るための狩猟場である。
ツムカイ属 (Pelagic Nomad)
- 概要: 高速回遊するウディアン。「大龍昇」による餌の増減がトリガーとなり、凶暴な「群生相(大回遊)」へと変貌し、全てを食い尽くす災害となることがある。
4. 支配勢力:ヴォルフガング提督とコーツ家
この海域は誰の領土でもないが、実質的な支配権を巡って争いが続いている。
北部防衛艦隊 (Wolfgang Fleet)
- 指揮官: ヴォルフガング・ヴァレリウス提督(ヴァレリウス家の分家筋)。
- 役割: ラヴァフォージ製の装甲艦を率い、アビサリアンの侵攻を食い止めつつ、レヴィアタン狩りを行う。
- 特徴: 「鉄の肺」の異名を持ち、荒れ狂う海での艦隊運用に長けた海の男。
辺境伯コーツ家 (House Coates)
- 役割: 沿岸部(北東辺境領)を拠点に、漂着した資源やスクラップを回収・加工する。
- 関係: 提督とは「資源と防衛」で協力関係にあるが、利益配分を巡って緊張状態にあることも多い。
5. 物語における位置づけ
- 死地: 生半可な装備で入れば、波に砕かれるか、怪物に食われるか、あるいは凍え死ぬ。
- 宝物庫: しかし、一攫千金を夢見る男たちや、神殿の支配を逃れたい無法者たちが、命を賭けて挑む場所でもある。
- リチャードの視点: 彼はここで、この星の生態系が「異常なエネルギー循環(大龍昇)」によって支えられている事実を目の当たりにする。
