1. 地理と役割
地理的特徴
常に極寒の暴風と荒波に晒される過酷な岩礁地帯(ヴァスカ断裂諸島)。 活発な火山活動を利用した地熱エネルギーと、豊富な鉱物資源を有する。住民は生き残るために「鉄の工廠(こうしょう)」を築き、住居と工場、そして要塞が一体化した重厚な都市景観を形成している。
役割:『矛』
神殿(中央)が「脳」、南部が「胃袋」であるならば、北部は国家の**「矛(武力)」**である。 レヴィアタン狩りによる資源獲得と、対アビサリアン(深海人)防衛の最前線を担う。
2. 歴史的背景:ヴァスカの遺産
この地域の文化基盤は、かつてアルセリアン帝国(法と秩序)と覇権を争った「匠の氏族」、ヴァスカ人の末裔によって築かれている。
信仰と情動 (Glōzi-Lekt)
彼らは秩序(法)よりも、個人の力、勇気、そして**「情動(混沌の火)」**に最高の価値を置く。
- 主神: 鍛冶神ヴァルカン。「嵐を殴る男」と呼ばれ、その身に「傷跡(Skar)」を持つ闘争と創造の神。
- 変質: ナギ教団の支配確立過程で、彼らの信仰は「野蛮な偶像崇拝」として否定され、神話は「皇帝に仕えた乱暴者の巨人」という教訓話へと格下げされた。
技術:ラヴァフォージ (Lavaforge)
ヴァスカ人が用いた、情動をマグマと共鳴させて鉄と岩を加工する秘術。 聖都ウェノ・マトルを守る「防嵐城」も彼らの手によるものであり、城壁に刻まれた「四方の巨神像」は、本来は彼らの憤怒や怨嗟の象徴であった。
3. 政治体制:大ヴァスカ主義
現代の北部では、ナギ神殿や南部の貴族に対する不満と「実力行使への渇望」から、**「大ヴァスカ主義」**と呼ばれる軍事産業的イデオロギーが台頭している。しかし、星外勢力(アクラブ)への対応を巡り、国論は二分されている。
開国・実利派 (Pragmatists)
- 主体: ラヴァル一門などの産業領主層。
- 思想: 「毒を食らって力を得る」。アクラブの技術を利用すべき道具と捉え、神殿支配からの脱却と「富国強兵」を目指す。
攘夷・純血派 (Purists)
- 主体: 特務審問隊などの現場軍人層。
- 思想: 「鉄は純粋でなければならない」。アクラブの技術を「魂を腐らせる汚物」と見なし、徹底排除を主張する。
4. 主要な領主と人物
北部の名家は土地ではなく「産業」を領地とする「産業貴族」であり、ヴァスカの血を引く武闘派が多い。
ラヴァル公爵家 (House Laval)
北部の盟主にして、かつての「蛮族の王」の直系。軍服と政治で支配する近代的な武人貴族であり、現在の開国・実利派の中核をなす。
ヴォルフガング・ヴァレリウス提督 (Admiral Wolfgang Valerius)
ヴァルガズ家出身の北洋艦隊提督。冷徹なテクノクラート。 「思考を加速させる薬物(アクラブ由来)」を使用し、軍のサイボーグ化(近代化)を推進する実利派の代表格。
コーツ伯爵家 (House Coates)
北東辺境領(ネル・グザスト)を治める辺境伯。
- 役割: アビサリアンの侵攻ルート上にある重要拠点、沖合中継塔**「アトゥーシュ」**の死守。
- 特徴: 一族は**「錆びつく水晶病」**という遺伝病を抱えており、漂着した古代の残骸(スクラップ)を再結晶化する独自の技術を持つ。
ヤルン・スカー (Yarn Skar)
攘夷・純血派の軍事指導者。「ヘマタイト兵団(赤錆の爪)」を率いる巨漢。 豪放磊落かつ残忍な軍人気質を持ち、「力こそ正義」を信条とする。南部の軟弱な文化や、アクラブに媚びる開国派を激しく侮蔑している。