ゲンサーリ・ナザール

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年代

35,490

出版元

パワーボール・マスケット
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overview

聖都ウェノマトルにおける、第39代の大紋様官 (Limner)

Content

「ゲンサーリの最大の功績は、都市の城壁を築いたことではない。認識の地平線に壁を築いたことにある。

彼は羊皮紙に書かれた『星の来訪者』という記述を削り取り、その上にインクも乾かぬうちに『黒き蛮族』というものを上書きしたのだ。この意味論的詐術によって、聖都民にとっての敵は、『頭上の不可解な無限』から『地殻の底の忌まわしき湿潤』へと変貌した。

——『虚構の年代記』ウンバ・カルヴィ著

「ナギのあらゆる天話体系において、天空は聖なる秩序の源泉であり、地下や深淵は混沌の領域とされる。ゲンサーリの弁論における特異性あるいは快挙は、彼自身が俗世におけるその代表者でありながら、この宇宙論的垂直軸(アクシス・ムンディ)を意図的に切断したところにある。

彼は『惑星外文明』という概念を、聖都の存在論的脅威と定めた。なぜなら、外宇宙の存在を認めることは、ナギが築き上げた閉鎖系の安寧(あるいは羊水的微睡み)が、広大な真空に浮かぶ孤独な泡沫に過ぎないことを暴露してしまうからだ。

ゆえに彼は、外部からの侵入者を『深海』という、重力と水圧に支配された『下層』の存在、ウェノマトルの民衆が認知、そして用意に憎悪、軽蔑できる象徴へと分類した。民衆は『見上げる』ことから解き離れ、『見下ろす』ことへと解き放たれたのだ。聖都のコスモロジーにおいて、天頂は封鎖され、底なしの深淵だけが恐怖の対象として口を開けている。

——『聖なる虚無——逆転した天話構造』ミチャ・エリクスス著

ヤ=ムゥ史の転換点となった アクラブ襲来において、ゲンサーリが果たした役割は、単なる防衛指揮官のそれではない。彼はこの未曾有の危機を、自らの天話体系を完成させるための『儀式』として変質かさせたのだ。

彼はアクラブという異形の侵略者を、物理的な脅威として退けるのと同時に、象徴的な意味において穢れとして定義した。聖都を脅かすものは、常に外部から理解不能な形式を伴って現れる。

——『恐怖の政治学——外部性の排除』

「戦後、彼が断行したのは物質的な復興ではなく、記号論的な『大掃除』であった。彼は驚くべき嗅覚で禁制品 ——すなわち、ダークシーの濁流に飲み込まれた果てに、聖都沿岸へとたどり着いた、漂流物たち。その異物を次々と見抜き、廃棄させた。

ここで注目すべきは、彼が襲来者において認めた唯一の物質体系が聖織と紋様であったという事実である。エリクススが指摘する『普遍言語の夢』のように、ゲンサーリは襲来した新たな世界を排斥するだけでなく、『織物(テクスト)』として捉え直そうとしたのだ。

鋼鉄やプラスチック、あるいは未知の機械装置は『翻訳不可能』な異物として排除される。対してそこに描かれる幾何学的な紋様は、解釈可能であり、制御可能な秩序の象徴である。彼にとって『聖織』以外の衣服を纏うことは、単なるファッションの問題ではなく、聖都という織物に対する『ほつれ』を生じさせる反逆行為に等しい。」

——『織物としての世界——聖都の記号論的分析』

ゲンサーリの伝統主義は、過去への回帰ではなく、現在を永遠に固定するための精緻な装置であった。彼は未来を語ることを禁じ、終わりのない「不変の過去」を語ることで、直線的な進歩がもたらす宇宙への進出というリスクを回避した。この時間の円環化により、聖都は変化という劣化から守られ、永遠に続く「今日」という安寧の中に隔離された。この文脈において、天文学は科学ではなく、聖都という劇場の「第四の壁」を破壊する冒涜的な降霊術として弾圧された。天文学者が火刑に処されたのは、彼らが嘘をついたからではなく、ゲンサーリが精緻に編み上げた世界の「ほつれ」を覗き見たからに他ならない。

これら一連の統治の背後にあったのは、狂信ではなく、誰よりも真実を知り尽くしたリアリストの孤独であった。ゲンサーリは、信仰の海が引き、剥き出しの物理法則だけが残された「溶岩海岸」の如き虚無の世界を独り見つめていたのである。彼は冷徹な計算に基づき、真実という猛毒から民衆を守るために「美しい嘘」という名の防波堤を築き続けた。雨街のような流動的文明を「根無し草の罪」として退けたのは、それが彼の構築した「意味の秩序」を揺るがすからであった。ゲンサーリという人物は、歴史上最も成功したキュレーターであり、その展示室こそが聖都ウェノマトルという閉じられた箱庭であったと言えるだろう。

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