chapter1 the ash born

二人の聖女が戻っていく道は、道と呼べるものではなかった。海が吐き出す塩辛い息吹が、氷の粒となって容赦なく頬を打ち、風は、まるで意思があるかのように彼女たちの重い外套を剥ぎ取ろうとした。一歩進むごとに、濡れた砂が足首にまとわりつき、次の一歩を億劫にさせた。

布に包まれて抱えていた。

「この決断に反対する者は多いでしょう…セタシオン卿」アデア導母長は言った。厳粛な顔をした

「言葉は無用です」セタシオン卿と呼ばれたその小柄な淑女は、フードを深くかぶり、その表情は隠れていた。

二人は灰色の砂と黒い岩が混じる浜辺を、巨大な神殿の岩壁に沿って歩き始める。そこは巡礼者が使う表参道ではない。潮と霧に隠された、裏門へと続く道だ。

そそり立つ崖の裂け目に、それはあった。人工物とは思えぬほど自然に溶け込んだ、一枚岩の扉。アデアが定められた手順でその冷たい岩肌に触れると、地の底から響くような低い唸りと共に、扉はゆっくりと内側へ開いていく。

風の咆哮が、扉の向こうの深淵に吸い込まれて消えた。

音が消え、色が消えた。そこは、人の感情を拒絶するかのような、巨大なモノクロームの石造りの空間。天井は遥か高く、重い影の中に溶けて見えなかった。

濡れた僧衣を引きずりながら、セタシオン卿はフードを脱いだ。

セタシオン卿には黄金仮面、アデアは厳粛な表情だ。

「神託を恐れぬ人が、街に増えています。その威光を恐れぬ人々が。新たな渦を呼び込むこと、それ自体が秘める危険性について」アデア導母長が言った。

「じっくりと、時間をかけて観察するのですね。育成するのです、神託とは長い時間をかけてなんども反芻し、飲み下すもの」セタシオン卿が言った。

「私の保護下であれば、悪いようにはしませんよっと」アデアは、遥か下方の通路で作業をする、豆粒のような人影を見下ろしながら言った。

長い回廊と、緩やかな石の階段を上りきり、二人はようやく神殿の中枢にたどり着く。星の王を称える16柱の聖堂の奥にある、潔斎の間。

部屋の中央には、黒曜石をくり抜いた桶が静かに水を湛えていた。磨き上げられた黒い床が、壁に灯された一つの灯りを、水面のように鈍く映している。

侍女が、白磁の器に入った香油を一滴、水盤に落とす。乾燥させた花弁を散らす。

「検分を」セタシオン卿が命じる。

侍女が赤子を水盤に浸す。だが、赤子は泣きもせず、ただ虚ろな瞳で、天井の闇を見つめているだけだった。

その沈黙の姿に、セタシオン卿は神託の最後の一節を話した。

…塩と砂の器は、虚ろなる沈黙で満たされ、7つの月が杯をかかげ、骸の血でその貌を洗うだろう…

アデアの口元に、初めて満足とも畏怖ともつかない、歪んだ笑みが浮かんだ。「気味が悪い、氷のように青白いではありませんか」

彼女は水盤の縁に立ち、赤子を見下ろすと、静かに、しかしその場にいる全ての者の魂に刻みつけるように宣言した。