ゾンク・ポッド

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今日もまた、雨である。

この街において晴天を待つという行為は、むこうの大陸の天導人の慈悲を乞うことと同様、極めて無意味な時間の浪費と言わざるを得ない。我々はこの絶え間ない水音とともに生き、そしてこの湿り気に適応する術を学んできた。

今日、筆者が足を止めたのはカスケード・プラザの第3層。降り注ぐ飛沫と、ホログラム広告が網膜を焼く色彩に囲まれた広場である。

設置された最新の「ゾンクポッド」自動販売機には、広告会社の扇情的なコピーが躍っていた。

「日常を、ブッ飛ばせ」

いささか野暮で、この街の重苦しい空気には不釣り合いなほど眩しすぎる言葉だ。しかし、最新のフレーバーポッドをデバイスに装填し、深く、静かにその一吹を肺に沈めた瞬間、私はそのコピーが単なる虚飾ではないことを認めざるを得なかった。

ゾンク・ポッドの一吹(パフ)は、空虚な問すらもカスケード・プラザのネオンへと消えていく。

レギュレーション限界までチューニングされたレースカーのように、淀んだ思考は痺れゾンクする。

雨街の住人は、正気を供物にして加速を手にするのだ。

プラザを見渡せば、 ギルド・プライムで朝の投資に神経を磨り減らすアナリスト。 濡れたコートの襟を立てたフォグ・ウォーカー。マッド・グロウに塗れ、掘削の便を待つスプラッシャーから、指先にオイルと回路の記憶を刻み込んだギアヘッドまで。

出自も、人種も、その掌に握られた通貨の価値さえも異なる彼らが、唯一等しく共有できる時間。ゾンクを吸い込み、紫煙を吐き出すあの刹那の静寂なのである。

霧が視界を侵食し、いつ崩壊するかも分からぬこの雨街において、ゾンクの介在なしに、どうしてこの長く孤独な夜をやり過ごせようか。

今回試した最新フレーバーからは、微かに「磯」の香りがした。あるいは、それはこの街に降り注ぐ雨そのものの味であったのかもしれない。だが、吐き出した煙がネオンの残像に溶けて消えるとき、確かに筆者の「日常」は、一瞬の解放を得て彼方へと飛び去っていったのだ。

さて、次なる一服は、路地裏のジャンク屋で密かに流通しているという「限界ポッド」を試すとしよう。紳士の嗜みとしては些か危うい選択ではあるが、それもまた、この街を歩く醍醐味というものではないだろうか。

published by : City Walker

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