1404号室の住人は、すでに「解像度」を失っていた。 男は、扉を開けた私を、焦点の合わない目で見つめた。彼の部屋は2DKの平凡な間取りだが、キッチンにある古い冷蔵庫だけが、不自然なほどに唸り声を上げている。 「15階へ行くなら、中を冷やしておけ」 男はそれだけ言うと、床に散らばったホッチキスの針を、まるで素数を数えるように拾い集め始めた。 私は言われるまま、冷蔵庫のドアを開けた。吹き出したのは冷気ではない。それは、新品の消しゴムの匂いと、誰かの「後悔」が発酵したような、鼻を突く芳香だった。私は野菜室を踏み越え、暗闇へと這い出した。その瞬間、世界は脱臼した。