第一報告書 於ヴァーラナ港 帝国暦三百四十二年 水無月
諸君、私はついにハインドモストの土を踏んだ。
灌漑水路の水音に、奇妙な規則性がある。複数の文が同時に朗読される際の、あの重なり合う呼吸のようなものだ。これが彼らの言う「流律(ズィーマ)」の端緒であるかもしれぬと、私は直感した。
通訳のジャルを雇った。初日、私が「この水路はいつ建設されたのか」と問うと、彼はしばらく黙ってから言った。
「建設、という言葉が正しいかどうか、私には判断できません」
私はこれを謙遜と受け取った。今思えば、彼はまったく別のことを言っていたのかもしれない。
スティルリーチ商会の出張所長ヴェルト氏とも会った。彼の関心は綿花の収量と港湾の使用料に尽きる。ああした人物がこの文明に触れることの害を、協会の諸君にはぜひご理解いただきたい。この地に必要なのは略奪者ではなく、理解者である。
第二報告書 於ヴァーラナ 帝国暦三百四十二年 文月
「流律(ズィーマ)」の語源について、一つの確信を得た。
この語根は単に「流体」を意味するにとどまらず、古語において「測られた祈り」あるいは「調停された響き」と同根である。すなわち彼らにとって演算と祈祷は、いまだ分離していない。我々スティルリーチが数理と呼ぶものを、彼らは神聖言語として水路に刻んでいる。
先日、大海嘯への備えとして水門を操作する儀礼を観察した。司祭と技術者の区別が、私には最後までつかなかった。ジャルに問うと、彼は「同じ人間です」と答えた。私はその意味を三日考えた。
第三報告書 於カンデラ・スード 帝国暦三百四十二年 葉月
彼らが自らを「最後尾(ハインドモスト)」と称する由縁を、諸君は進化の遅滞と解してはならない。それは進歩という名の狂奔への、高潔なる拒絶である。
社会は水と塩の管理能力に基づく三つの階梯によって秩序づけられている。最高位の呼称の原義は「深き水を計る者」、技術者は「言葉を流す者」、労働者は「土を支える者」。これらは原初における機能の分担が、言語の固定化によって不動の壁となった痕跡だ。
聖王国カンデラ・スードの王ダシュラト・ヴァルマンに謁見を申し込んでいる。しかし宮廷は海商連合グリーンアイルの債務問題で紛糾しており、返答が来ない。
ヴェルト氏からこの件への「協力」を申し出られた。丁重に断った。
第四報告書 於カンデラ・スード 帝国暦三百四十二年 長月
寺院大学への入場許可を得た。
最深部に、彼らが「星の欠片」と呼ぶ物体が安置されている。天から落ちたものと伝承される。一部の旅行者はこれを偶像崇拝の変種と記録しているが、私はそう見ない。
「永遠の定常を保つために、天上の未知なる知性を求める」——これは矛盾ではない。彼らの論理の中では、完全に整合している。その整合の構造を、私はまだ解読できていない。
ジャルがここ数日、私の質問に答える前に必ず一度、天井を見上げる。その意味も、まだわからない。