The ash born daughter 2

惑星ヤ=ムゥのちっぽけな陸地からは、日の光が差すことは稀だった。7つの月は予測不能な軌道で天を舞い、その引力に掻き回された海は、世界を覆い隠すほどの濃い霧と雲を絶えず吐き出し続けた。

夜明けは、光ではなく、冷気の深まりによって知らされた。首都ウェノ・マトルの街の周囲をぐるりと囲む、そびえたつ城郭。波涛は防ぐことはできたが、霧たちは容易くのりこえてきて、街を白くしていた。

街の中央小高いにある、小高い山に聳え息立った白い神殿。その一番高い尖塔から、ミズハは海を眺めていた。肌を刺す寒さが薄布の僧衣を通して染み渡り、ミズハは身じろぎ一つせず、ただ口元の小さな雲だけが動いていた?。

「嵐季が終わったんだわ」

彼女は石ころのように階段を下って、宿舎を目指して下って行った。宿舎の厨房へと飛びむと彼女は大声で言った。

「ヴェレナさま、嵐季が終わりました。今日は私が院に入る日です!」

ミズハと同じ、灰色の僧衣に身を包んだ女性が言った。ミズハと同じ、灰色の僧衣に身を包んだ女性が、粥をかき混ぜる手を止めずに言った。部屋には香りがしてた

「そう。…じゃぁ、みんなを起こしてくるのよ」

彼女は元気よく返事をすると、今来た道を駆け戻り、宿舎の薄暗い大部屋の扉を勢いよく開けた。

「みんな、起きて。嵐季が終わったわ、終わったのよ」

朝食の席は、いつになく騒がしかった。粥に添えられた数粒の甘い木の実が、特別な日の訪れを告げていた。食事を終えると、導母はミズハを連れて神殿の正門へと向かった。

ざわめきが聞こえてきた。指導役の神官に連れられた少女たちが、長い階段を上ってきた。ミズハと同い年の、新たな姉妹たちだった。

導母とともに、ミズハは彼女たちを宿舎へと案内した。

さっそく少女たちはウェノ・マトルで着飾っていた服を脱ぎ、簡素な純白の僧衣へと着替えていく。

同い年というものにわくわくしている

自分たちの家の服を見せあう

「こんな粗くてガサガサした布、初めてみたわ」

あちこちから不満の声が漏れる中、少女の一人は甲高い声で、自分の僧衣の裾に織り込まれた、幾何学的な星の柄を満足げに眺めていた。彼女は隣で着替えていた少女を一瞥して言った。

「あなたのお家は、海の方なのね」

魚の柄の少女は、少し顔を赤らめながらめた。

「ちがうわ、これは波と櫛。魚なんかとったりしないわ」

「そう、ご苦労なことね。あなたは?」星柄の少女は、反対の子に聞いた。

「うちは草と模様」

少女たちは自己紹介と一緒に柄チェックを始めた。  

みな名家から来た娘ばかりで、親譲りのプライドを受け継いで、幼くもこれが家系を表すことを知っていた。

それを知らないのはミズハだけで、戸口に立って不思議そうにどうして早く着替えないのだろうとみていた。

この格付けは最後に、ミズハを残すだけになった。

「あとはあなただけよ」

「いや、私にはなにのないもの」

星模様の子は言った。「なにも無いわけないじゃない。それじゃどこのお家の子か分からないもの」

「本当よ」ミズハはそう言ってその場でゆっくり回った。自分は神殿の子。導母にそう言われて育ったミズハは、それが素晴らしいことだと思って育った。疑問に思ったことなどなかった。

 「ほんとだわ、 何の柄もないわ」

一瞬の沈黙。そして、星の柄の少女が、くすりと嘲笑を漏らした。その笑いを合図にしたかのように、周りの少女たちが無邪気にくすくすと笑い出す。

「あんた、灰から生まれた子なのね」

ミズハには、その言葉が何を意味するのか、全く分からなかった。 ただ、自分に向けられる全てが、神殿の冷え切った石畳よりもずっと冷たかった。

少女たちはみことのりを覚えていなかった。

その夜、皆が寝静まるころミズハは、宿舎のベッドが空いているのに気がついた。

ミズハは気がついた??

聖堂との間のとこだって??

小さな嗚咽を耳にした。新しく与えられた、まだ糊の効いた白の僧衣が、心細げに震えていた。

ミズハは一度通り過ぎようとした。風の紋様、この子も私のことを笑っていたわ。

彼女はしばらくためらった後、静かに少女のそばに歩み寄った。きっと一人では宿舎に帰れないだろうと思った。

「……帰りたいの?」

少女はびくりと肩を震わせ、涙で濡れた顔を上げた。大きな瞳が、驚きと警戒に揺れていた。

「わたしの家は、毎日たのしいことばかりだったの。お父様も、お母様も……そして家中どこも温かかった」

お父様とお母様がいるのは、きっと楽しいことなのだ、と彼女は心の中で繰り返す。この大きな神殿よりも、宿舎よりも小さいお家。それは素晴らしいのだろうか、ミズハには想像がつかなかった。

「ここにも、楽しいことはあるのよ」

具体例を挙げる

風紋様の少女――ソーナと名乗った――は、ただしゃくりあげるばかりだ。ミズハは少し考え、別の言葉を探した。

「迷子になったのなら、案内する」彼女はぶっきらぼうに言った。「私は道を、全部知っているから」

ソーナは、その無愛想な優しさに戸惑いながらも、涙の跡が残る手で、ミズハが差し出した手をそっと握り返した。ミズハの手のほうが、箒仕事で少し硬かったが、温かかった。

「私たちは、毎日掃除をして、火壇には泥炭をくべるの」

「それって全然つまんないじゃない」

ミズハはソーナの手を引き、自分が知る世界の秩序を一つ一つ指し示しながら、静かな廊下を歩き始めた。

ミズハには、明日からが楽しみだった。姉たちに加わり、ナズの女君になるための修練ができる。それは素晴らしいことだった。

ソーナがどうして泣いているのかは分からないが、神殿を案内するのは気分が良かった。