私がそこで目にしたものは、我々が知る「生命の営み」とは似て非なる、惑星規模の巨大な生物反応炉であった。途方もない歳月、そして管理者による冷徹な工学が、物理法則と生物学的進化を一つの閉鎖回路へと縫い合わせたのだ。
まずもって、この世界の動力源は、光合成ではない。比重差を利用したガス型の循環こそが、この生態系の血管なのだ。
トンネルの遥か最下層では、岩石と水の化学反応(蛇紋岩化作用)が絶えず行われており、膨大な熱と水素を生成している。熱で膨張し、軽くなったガスが上昇することで、惑星規模の「呼吸」が始まる。
洞窟内の比較的安定した大気の中で、ゆっくりとした、しかし確実な気流がうまれ、軽いガスは上昇していくのだ。
この軽いガスを待ち受けるのは、地表で窓の役割を果たすケイ素植物である。彼らは通常の植物とは真逆の挙動を示す。地下から上昇する軽比重ガスを吸入し、恒星エネルギーを用いて重い二酸化炭素と有機物へと変換するのだ。
冷却され分子量が増大した二酸化炭素は、巨大な垂直トンネル(チムニー)を「ガスの滝」として猛烈な勢いで流れ落ちる。これが地下深部へ酸素と栄養を供給する、動力源としての「吸気」となるのだ。
この地下世界の小さな建築家は、石材を積むのではなく、岩盤を食らうことで空間を常に広げている。
最下層から生まれた軽量のガスは、徐々に天井に小さなプールを作り出す。そして水素を求める微生物群が、天井の岩盤を化学的に溶解させながら上方へ食い進むことで、長い年月をかけて数千メートルに及ぶ完璧な風洞が形成したのだ。
洞窟の壁面を覆う「地菌類」は、上昇ガスを直接タンパク質へと変換する一次生産者であると同時に、珊瑚礁のように複雑な気流を生み出す洞窟を掘削する。少しでも効率的に吸収するための知恵なのだ。