僕はもう一度、あの帯が、ゆっくりと流れて行くのを、楽しみたいと思った。
机の端には、一本の鍵が置かれている。 ただの冷たい金属の塊として、僕はそれを手に取ってみる。
それは一定のリズムで、かつて、夜のバイパスを走り抜けていた時の、風切り音にも似ていた。
タイヤがアスファルトを噛む、単調で執拗な振動。僕は何も喋らずオレンジの光だけを数えていたような気がする。
カセットデッキの『EJECT』ボタンを押し、僕は裏返した。
カチャリ、という乾いた音が静寂を切り裂く。
「ねえ、なんだか嘘みたいね」
留守番電話の断片が、遅れて届いたノイズ混じりで再生される。
プラスティックな恋に踊らされていた誰かの記憶が、磁気テープのノイズに乗って部屋の隅々にまで浸透していく。
ふう、と思う。中央フリーウェイを右手に競馬場、左手にビール工場を眺めながら、どこへ向かおうとしていたのだろうか。
流れていくソジウムの光に、何を託そうとしていたのだろうか。