ひび割れた声が、砂を噛む。それは祀るための器ではない。
「あそこにあるのは、小さな祠だ。だが注意しろ、あれは建物の一部じゃない」
老人は鉛筆を折り、壁に刻まれた無数の数式を指でなぞる。
「偽物が、唯一『現実』に触れるための針の穴なんだ。いいか、この壁も、床も、お前が踏み締めている手触りさえも、すべては質の悪い書き割りに過ぎない。だが、あの奥にある祠だけは違う。あれはうっかり落とした『本物』だ」