ピュリティ・アベニュー。まだ閑散としたその通りを歩いていると、そこは古い都を感じさせる、高潔で冷たい感覚をしばし感じさせました。そびえ立つ建物は赤煉瓦を模した肌を持ち、書架のように規則的に並ぶファサードは、まだ眠気をうちに秘めた紳士のように、私を出迎えたのでした。
書架から飛び出した本のようにいくつも突き出した出窓から、ちらほらと連盟の官僚たちが姿を現しては、しばし通りを見下ろし、またすぐに建物の中へと消えていくのを眺めていると、約束をしていたリプリーさんが会館から姿を現したのでした。
リプリーさんは立派な方でした。その記憶は小さなころから常に父の隣にあって、常に建設的な議論を交わしていたのを記憶しています。
「やぁセシル、相変わらずだね」
リプリーさんは相変わらずでした、そして私も幸か不幸かまた相変わらずなのでした。
「いやぁ、忙しい。そしてついてない。実についてないよ。私がどうしてこの会館にはるばるやってきたかわかるかね?前にあったのはいつだったか。タラキから昨日の最後の便でとんできたのだよ、はるばる」
「ええ、おじさま。宙賊の件でしょう」
「そう、その通りだ。私の貨物たちだ。それがやつらに、まるまる奪われてしまったのだ。なのに、その割にはこのリプリーはあまり驚いていない、そう思わないかね?」
「レーンの貨物は須らくプロテクション・レントに保護されているからですわ。プライムギルドの証券化した商品として。でなければ、弾道貨物のシリンダー間の交易なんて成り立つはずありませんから」
「専攻はなんだったかね?」
「天体測量ですわ」
「そうか、そうだったな。お父さんを思い出すよ、この手の議論はいつも私の連戦連敗。勝ち越したことなどないのだった!」
リプリーさんは、時代がかった仕立ての外套の襟を正すと、深いため息をつきました。その吐息は、かつてに比べると、しばし流儀が薄れているというか、商人気質というか、私のまだ見ぬほかのシリンダーの気質の混ざったものであることは確実でした。
「連中のやり口は、もはや単なる略奪ではない。最も恐ろしいことに、外の世界はあまりにも残酷だ。商人と逆賊の違いは、わずかしかなく、保護をかけていないものは、一夜にして秩序の外へと崩壊していくのだ」
彼は、精巧な義手である右手の指先を、苛立たしげに鳴らしました。
「まったくもって煩わしいものだ、いかに正統な手順にのっとって、略奪が正統に発生したかを証明するかだと?プライム・ギルドときたら」
リプリーさんは、通りの端に佇む、眠たげなファサードの建物を見上げました。その眼差しは、かつて父と語らっていた頃の情熱的な鋭さを失い、代わりに底知れない疲労の色が混じっています。
「でも、おじさま。理屈はもっと単純なはずですわ」
私は、大学で学んだばかりの弾道学の基礎をなぞるように、指先で空中に仮想の数式を描いてみせました。
「マスドライバーの機構によれば、一度貨物が打ち出された時点のログ……つまり、初速度と射出角さえ正確に記録されていれば、真空・低重力の環境下では貨物は理論値通りの放物線を描いて飛翔します。あとから軌道が捻じ曲げられたことを測量学的に証明できれば、それは不可避の事故ではなく人為的な介入として、証明として成立するはずですわ」
しかし、彼は私の言葉を遮るように、力なく、そして嘲笑うような溜息を吐き出したのです。
「セシル、教科書通りの正論だよ。だがね、現実の船内ログはもっと狡猾なのだ。中にはプロテクション・レント目当てで、射出後に当然行われる軌道補正ログに、不遜な手を入れて書き換えてしまうやつらがいるのさ」
リプリーさんは、少しだけ表情を和らげ、私を労るような視線を向けました。
「ところで、仕事の方はどうだい、セシル? 私の知る限り、すこぶる優秀なのだろう。アストロ・ジオデジー局のような、知性の心臓部、いやあるいは眼といった方が正しいかもしれない、とにかく君の才能は際立っているはずだ」
「……表向きは、それなりに。測量士としての技能については、一定の評価をいただいています。けれど、おじさまもご存知の通り、ここでの居場所を確保するには、知性と努力だけでは足りないのです。法学予備院にいた友人たちも、みんなとっくに卒業してしまいましたが」
私は自分の手首の小石、ヘイズで所有が許可されている唯一の資産をなぞりました。
「市民点の負債か、まだ完済できていないのか。セシルや、君は今年で80かい?こればかりは私にも、どうしようもないのだ。君以外の他人には」
「ええ。もし私が満点の市民点を持っていれば、いやゼロからのスタートだったとしても、 なんらかの措置での昇進もあったかもしれません。けれど、私はこれをある種の枷であり、同時に自らの課題として取り組んでいるのです」
リプリーさんは痛ましそうに目を細め、私の父の思い出と、現在の私の境遇を重ね合わせているようでした。
「いいかね、この言葉を君に送るときが来たようだ。ここで生まれ育ったリプリーの、少しばかり広まった知見と、そしてこの言葉の持ち主の力を借りるのならばだ。まだ若き君に贈るべき時が、ようやく来たと思うのだ」リプリーさんはそう言って私の方を見ました。「ヘイズは美しいが残酷だ。そして外の世界は残酷だが美しい。誰の言葉かわかるかね?」